サーボの背景技術② 動特性が有す周波数特性
1次遅れ要素が有す周波数特性を応用したローパスフィルタ

 機械、電気、制御を含めたシステム全体(系)には、必ず固有の動特性が含まれています。固有の動特性は周波数に応じてゲインと位相が変化する固有の周波数特性を伴います。この周波数特性が存在するため、自動制御が学問化され、サーボ化が難しくなります。
 したがって、”動特性が有す周波数特性を制す者はサーボ(自動制御)を制す”と言っても、過言ではありません。
 ここでは、1次遅れ要素が有す周波数特性を利用(応用)したローパスフィルタを(体感して)使いこなすべく、考えてみましょう。

 無次元化した1次遅れ要素の伝達関数を図115に示します(ご参考<1次遅れ要素の誘導>)。1次遅れ要素は、ノイズ(不要な高周波信号)を除去するローパスフィルタとしても使用されます。
 ローパスフィルタに信号Xを入力すると、ローパスフィルタからはノイズが”ある程度”除去された信号Yが出力されます。ここでは、その効用に関して説明します。
 ノイズは”確実”に除去されるのでは無く”ある程度”除去されるのですが、その”ある程度”を確実に体感しましょう。きっと、サーボの習得に役立ちます。

図115_ローパスフィルタの伝達関数 サーボバカセ河野泰幸

 1次遅れ要素の時定数T(s)とローパスフィルタのカットオフ周波数F(Hz)の関係を、式117に示します。

サーボ職人河野泰幸 式117_抵抗-インダクタンス回路から抽出されるローパスフィルタのカットオフ周波数を示す数式

 入力信号の周波数をf(Hz)とし、
ローパスフィルタの入出力間ゲインGLow-pass-f(Y/X)を式211、
入出力間位相ΦLow-pass-f(XからYに至る位相遅れ角度)を式212に示します。

 GLow-pass-f=1/√(1+4(πTf)2)   式211

 ΦLow-pass-f=-tan-1(2πfT)     式212

 例えば、カットオフ周波数F=10Hz(時定数T=0.0159s)のローパスフィルタを、式211と式212を使用して、入力信号の周波数(fHz)毎に、
 入出力間ゲインGLow-pass-f
 入出力間位相ΦLow-pass-fを、図示します(図211)。

図211_カットオフ周波数10Hz(時定数0.0159s)のローパスフィルタのボード線図

 (図211 カットオフ周波数F=10Hzのローパスフィルタ 周波数特性線図

 図211の示す意味を考えてみましょう。

 図212には、同カットオフ周波数F=10Hzのローパスフィルタにそれぞれ、
大きさ1正弦波の1Hz、10Hz、100Hz状入力信号Xを通した場合の入力信号Xと出力信号Yを示します。

図212_カットオフ周波数10Hz(時定数0.0159s)のローパスフィルタの正弦波入力X(1,10,100Hz)に対する出力Y応答

 (図212 カットオフ周波数10Hzのローパスフィルタ
        正弦波入力X=1,10,100Hzに対する出力Y応答

 図212の上段には、大きさ1,周波数1Hzの入力信号を与えた場合を示します。
 YはXに対して、大きさはほぼ同じ(Y/X≒1)で5.7度遅れています。これらの値は、図211においてf=1HzにおけるゲインGLow-pass-f、位相ΦLow-pass-fに相当します。
 このように、入力信号の周波数fがカットオフ周波数Fより十分小さいカットオフ周波数に限らず1/10の)場合は、ゲイン(Y/X)はほぼ1)、位相は僅かに5.7度)遅れます。

 図212の中段には、大きさ1,周波数10Hzの入力信号を与えた場合を示します。
 YはXに対して0.71(Y/X≒0.71)で45度遅れています。これらの値は、図211においてf=10Hz(=カットオフ周波数)におけるゲインGLow-pass-f、位相ΦLow-pass-fに相当します。
 このように、入力信号の周波数fがカットオフ周波数Fの場合はカットオフ周波数に依らず、ゲイン(Y/X)は0.71、位相は45遅れます。

 図212の下段には、大きさ1,周波数100Hzの入力信号を与えた場合を示します。
 YはXに対して0.1(Y/X≒0.1)で84.3度遅れています。これらの値は、図211においてf=100Hz(カットオフ周波数の10倍)におけるゲインGLow-pass-f、位相ΦLow-pass-fに相当します。
 このように、入力信号の周波数fがカットオフ周波数Fより十分大きいカットオフ周波数の10倍の)場合は、ゲイン(Y/X)は1より十分に小さく1/10になり)、位相は90度遅れに漸近します84.3度遅れます)。

 ローパスフィルタは、入力信号の周波数がカットオフ周波数と等しくなるところで入出力間のゲインは0.71になり、位相は-45度になります。また、カットオフ周波数を境にして入力周波数が10倍大きくなる毎にゲインは1/10小さくなり位相は-90度に漸近します。このローパスフィルタの特性を感覚的に頭に入れて、次のことを考えてみましょう。

 例えば、1Hzの必要な基幹信号にノイズと見なされる100Hzの不要な信号が載った信号Xがあります(図213)。

図213_1Hzの基幹信号に100Hzの不要な信号が加わった信号

図213 1Hzの基幹信号に100Hzの不要な信号が加わった信号X

 ローパスフィルタを使用して、信号Xから100Hzの不要な信号を、除去するにはどうしたらよいでしょうか?
 例えば、カットオフ周波数10Hzのローパスフィルタを通してみましょう。Xを10Hzのローパスフィルタに入力した場合の出力信号Yとし、Yを図214に示します。

図214_1Hzの基幹信号に100Hzの不要な信号が加わった信号Xとし、Xを10Hzのローパスフィルタに入力した場合の出力信号Y

 図214 1Hzの基幹信号に100Hzの不要な信号が加わった信号Xとし、
      Xを10Hzのローパスフィルタに入力した場合の出力信号Y

 Yは、Xの基幹部分に対して 大きさは変わらず 僅かに(約6度)遅れましたが、Xの不要部分に対しては大きさは1/10に縮小し(約84度遅れ)ました。
 仮に カットオフ周波数を10Hzより小さくすれば、その分(式211,式212にしたがって)基幹信号の大きさはより縮小し、より遅れ、不要な信号の大きさもより縮小し、より遅れます。つまり、カットオフ周波数を小さくすれば、不要な信号の除去作用は強まりますが、必要な基幹信号まで縮小したり遅れたりします。
 仮に カットオフ周波数をより大きくすれば、反対に不要な信号の除去作用は弱まりますが、必要な基幹信号は、縮小し難く遅れ難く原形を保ち易くなります。
 これが本章の冒頭で述べた「ノイズは”確実”に除去されるのでは無く”ある程度”除去される」ことの意味です。”ある程度”を確実に体感できたでしょうか。

 しかし、1つ注意があります。フィードバック制御系のフィードバック信号にノイズが混入した場合に、ローパスフィルタを入れて対応して良い場合と、入れて対応すべきではないる場合が存在します。
 以下には先ず、入れて対応すべきではない場合を説明します。
 図115には、ステップ状の位置指令Xrefに対して位置を追従させる、位置フィードバック制御系において、配線上の問題などにより位置信号Xに100Hzのノイズが混入した場合の位置制御結果を示します。ノイズが混入している以外、信号Xには指令Xrefに対してオーバーシュートも見られず、制御系は安定しています。

図215_位置フィードバック制御系の位置信号に100Hzのノイズが混入

図215 位置フィードバック信号に100Hzのノイズが混入した場合の
     位置フィードバック制御結果

 この位置フィードバック制御系の位置信号に、ノイズ除去の目的でカットオフ周波数10Hzのローパスフィルタを通します。その位置制御結果を、図216に示します。ノイズは上手く除去できていますが、肝腎の位置信号XはXrefに対してオーバーシュートしています。

図216_位置フィードバック制御系の位置信号に100Hzのノイズが混入→位置信号に10Hzのローパスフィルタを通した

図216 位置フィードバック制御系の位置信号に100Hzのノイズが混入し
     位置信号に10Hzのローパスフィルタを通した場合の位置フィードバック制御結果

 これは、ローパスフィルタ-(のカットオフ周波数)が、ノイズ除去には適当でも、位置フィードバック(基幹)信号には不適当だからです。つまり、このカットオフ周波数10Hzが、この位置制御系の(位相余裕に影響を与える)有効周波数領域内にあり、このローパスフィルタがこの位置制御系の有効周波数領域の位相を10度程度遅らせて、位相余裕を減少させてしまうからです(ご参考<サーボの安定/不安定>)。

 次に、入れて対応すべき場合を説明します。
 図117には、同上の位置フィードバック制御系において、原因不明の問題により位置信号Xに1000Hzのノイズが混入した場合の位置制御結果を示します。ノイズが混入している以外、信号Xには指令Xrefに対してオーバーシュートも見られず、制御系は安定しています。

図217_位置フィードバック制御系の位置信号に1000Hzのノイズが混入

図217 位置フィードバック信号に1000Hzのノイズが混入した場合の
     位置フィードバック制御結果

 この位置フィードバック制御系の位置信号に、ノイズ除去の目的でカットオフ周波数100Hzのローパスフィルタを通します。その位置制御結果を、図218に示します。ノイズは上手く除去できており、肝腎の位置信号XもXrefに対してオーバーシュートすることもなく安定しています。

図218_位置フィードバック制御系の位置信号に1000Hzのノイズが混入→位置信号に100Hzのローパスフィルタを通した

図218 位置フィードバック制御系の位置信号に1000Hzのノイズが混入し
     位置信号に100Hzのローパスフィルタを通した場合の位置フィードバック制御結果

 これは、ローパスフィルタ-(のカットオフ周波数)が、ノイズ除去に適当で、しかも位置フィードバック(基幹)信号には殆ど影響しないからです。つまり、このカットオフ周波数100Hzが、この位置制御系の(位相余裕に影響を与ない)十分に高周波数の無効周波数領域内にあり、このローパスフィルタがこの位置制御系の有効周波数領域の位相には、殆ど影響を与えないからです。

 また、サーボバカセは、フィードバック制御系の指令にローパスフィルタを通す使い道を、重宝しています。例えば、同上の位置フィードバック制御系の位置比例ゲイン(定数)を2倍に大きくした場合に、ステップ状の位置指令Xrefに対して位置Xを追従させた位置制御結果を図119に示します。位置は、半周期およそ0.05sで振動(目標位置をオーバーシュート後にアンダーシュート)しています。

図219_位置フィードバック制御系の位置比例ゲインをUP

図219 位置比例ゲインを2倍に大きくした位置フィードバック制御系の
     位置フィードバック制御結果

 これは、位置比例ゲインをUPしたことにより 位相余裕が減少し、やや不安定化した位置フィードバック制御系に、高周波成分を多く含むステップ状の位置指令が入力されたためです。言い換えれば、この位置フィードバック制御系の固有振動数は波形の振動状況から約10Hz程度と考えられ、ステップ状の指令に含まれる10Hz程度の成分が、固有振動を励起したとも 解釈できます。
 この振動を抑制するためには、比例ゲインを下げる方法が最も普通ですが、そうすると、位置制御そのものが弱くなり(荷重)外乱に対して弱くなることが危惧されるため、ここでは 位置指令に対して、この位置制御系の固有振動数10Hzよりやや小さいカットオフ周波数8Hzのローパスフィルタを通します。ステップ状の信号Xrefに8Hzのローパスフィルタを通した位置指令Xref’を使用した場合の位置制御結果を図220に示します。

図220_位置フィードバック制御系の位置比例ゲインをUP,位置指令に8Hzのローパスフィルタを通した

図212 位置比例ゲインを2倍に大きくした位置フィードバック制御系の
     位置指令に8Hzのローパスフィルタを通した場合の位置フィードバック制御結果

 こうすると、ステップ状の位置指令から カットオフ周波数8Hzのローパスフィルタのゲイン周波数特性にしたがって 高周波数成分が除去されるので、位置制御系の立ち上がりが安定します。
 位置信号にローパスフィルタを通すと、フィードバックループ内の位相を遅らせる問題を少なからず生じさせますが、位置指令にローパスフィルタを通すと、フィードバックループ外の位相を遅らせるため、制御系を不安定化させる問題は生じません
 なお、ローパスフィルタ-(8Hz)の時定数T(≅0.02s)は、ステップ状の指令に対してローパスフィルタが63.2%立ち上がる時間を示しています。指令を遅らせる時間の目安として、頭に入れておくと便利でしょう。

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内容 サーボの背景技術②
動特性が有す周波数特性
1次遅れ要素が有す周波数特性を応用したローパスフィルタ
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作者 サーボバカセ
更新日 2022年5月5日