バネマス系のブロック線図を位置フィードバック制御系に置き換えた場合の位置フィードバック制御系の一巡伝達関数 図8を、それから力fの作用を除いた形に書き換えます(図301)。この場合、力fは位置フィードバック系に作用する外乱に相当するため、除きます。
図301において、力から速度に至る、1つ時間積分を介し(速度から力まで)フィードバックしているは一次遅れ要素を構成しますから、これを一次遅れ要素の標準形を用いて書き換えます(図302)。
図302内、1/(1+TS)が一次遅れ系の標準形です。Tは時定数を示し、本例では<301>式で示されます。時定数Tは、一次遅れ要素をステップ状の指令に応答させた場合に、応答結果が指令値の63.2%に到達するまでの時間を示します。
<302>式~<303>式には、1次遅れ要素のゲイン、位相の理論計算式を示します。ωは計算する角周波数(rad/s)を示します。この導入方法は、殆どの(自動制御に関する)専門書に記載されているので、ここでは割愛します。
図302に示した一巡伝達関数は、定数K、1/C、一次遅れ要素、時間積分が直列に接続されています。
では最初に、基本となる動特性の代表格である一次遅れ要素のボード線図を、Ms.エクセルを使用して描いてみましょう。
図303に、一次遅れ要素の周波数特性計算例を示します。計算する角周波数X(B列)は、時定数Tの逆数である角周波数ωO(=1/T)=98.06rad/sを中心に、およそ1/10~10倍の角周波数領域で計算するとよいでしょう。本例では、10rad/s~1000rad/sです。角周波数Xの対数Y=log10Xをとって、Xの両端値10、1000に相当するY 1、3の差異2をN(=今回は100)当分してY(A列)を計算し、X(B列)=10Yとすれば、10(低周波領域)~1000(高周波領域)までほぼ同程度の粗さでゲイン、位相が計算ができます。ゲイン(無次元)は<302>式、位相(度)は<303>式を使用し、それぞれG列、H列で計算しています。なお、I列には、ゲインを、無次元に対して20log10をとりデシベル(dB)表示しています。ゲインは一般的にデシベル表示することが多いため、ここで慣れておくとよいでしょう。デシベル表示すると無次元の1は0dB、10は20dB、0.1は-20dBになります。
計算角周波数X(B列)を横軸に、一次遅れ要素のゲイン(無次元)(G列)と位相(度)(H列)を縦軸に、横軸の角周波数と縦(左)軸のゲインは対数表示すると、一次遅れ要素のボード線図(図304)が描けます。
ここで図304を見ながら一次遅れ要素の特性を確認してみましょう。一次遅れ要素は、電気系や機械系内によく現れますし、制御系内で意図的にローパスフィルタとして使用するケースも多々ありますので、角周波数領域におけるゲインと位相の特徴的な形態は、頭に入れておくとよいでしょう! 低周波領域に向かうほどゲインは1に、位相は0度に漸近します。角周波数が時定数Tの逆数ωOではゲインは約0.71(-3.0dB)、位相は-45度です。角周波数がωOを超え高周波数域に向かうほどゲインは角周波数が10倍すれば1/10(-20dB)になる割合で低下し、位相は-90度に漸近します(-90度以上は遅れません)。
では次に、時間積分要素のボード線図を描いてみましょう。時間積分要素のゲイン、位相 計算式を<304>式、<305>式に示します。
図305に、時間積分要素の周波数特性計算例を示します。一次遅れ要素の周波数特性を計算したシート(図303)のJ列、K列にそれぞれ<304>式、<305>式に基づき、ゲイン、位相を計算します。
計算角周波数X(B列)を横軸に、時間積分要素のゲイン(無次元)(J列)と位相(度)(K列)を縦軸に、横軸の角周波数と縦(左)軸のゲインは対数表示すると、時間積分要素のボード線図(図306)が描けます。
ここで図306を見ながら時間積分要素の特性を確認してみましょう。時間積分要素も、機械系内(で例えば、速度→位置 応答部や作動油が圧縮されて油圧が発生する部分など)によく現れますし、制御系内で意図的に(積分補償要素として)使用するケースも多々ありますので、角周波数領域におけるゲインと位相の特徴的な形態は、頭に入れておくとよいでしょう! ゲインは角周波数ωの逆数(=1/ω)、位相は-90度です。つまり、ゲインは低周波数になるほど増大化し、位相は全角周波数領域で一律に90度遅れます。自動制御に触れたことがある方なら、積分(I)補償を行えば、定常状態における制御精度は向上するが、制御が不安定化するという概念を多少なりとも抱かれているのではないでしょうか? このことは、時間積分要素の周波数特性に基づいています。例えば、位置フィードバック制御を例にとりますと、位置指令信号から位置信号を減じた位置偏差信号に比例定数KPを乗じた比例(P)制御に対して、位置偏差信号を積分して比例定数KIを乗じた積分(I)補償をP制御に加算するPI制御は、一般的に停止位置精度がP制御より向上しますが、動作中はP制御より不安定化します。これは、位置が減速し停止に至る段階では、位置信号に低周波数成分が多く含まれるため時間積分要素のゲインが増大化し、それに伴い積分補償要素の増幅率が上がるため停止位置精度が向上し、しかし 特に動作開始時など動作中は位置信号に高周波数成分が多く含まれるため位置フィードバック制御系の一巡伝達関数の位相は遅れ傾向にある中で、さらに積分補償要素の位相遅れ-90度影響分が加算され、位相余裕が確保し難くなるため不安定化するのです。
では最後に、図302に相当する一巡伝達関数のボード線図を描いてみましょう。
図307に、一巡伝達関数の周波数特性計算例を示します。一次遅れ要素、時間積分要素の周波数特性を計算したシート(図305)のL列に比例定数Kを追加し、M列、N列にそれぞれ一巡伝達関数のゲイン、位相を計算します。ゲインは定数KをCで除した値に一次遅れ要素のゲインと時間積分要素のゲインを乗じたものです。位相は一次遅れ要素の位相と時間積分要素の位相を加算したものです。
計算角周波数X(B列)を横軸に、一巡伝達関数のゲイン(無次元)(M列)と位相(度)(N列)を縦軸に、横軸の角周波数と縦(左)軸のゲインは対数表示すると、一巡伝達関数のボード線図(図308)が描けます。
図308は、本文4章の図12(① K=3299000)と一致します。このように一巡伝達関数のゲイン,位相は、一巡伝達関数に含まれる(直列接続される)各要素のゲイン,位相の それぞれ積(デシベル表示した場合は和),和から求まります。
内容 | サーボの安定/不安定判断用 一巡伝達関数の周波数特性線図(ボード線図)の作成方法 |
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Eメール | hydro-servo-k@ab.auone-net.jp |
作者 | サーボバカセ |
アップロード日 | 2020年5月24日 |